CANDY×GAMEパロ&没小説集
なんだか恋愛色が強くなったため没作扱いになった二編と、
身内からもらったパロ小説を収録。本編よりちょっと砂糖が多めです。
収録作品
mugcup | 支店長@化猫。(化猫BANK) |
蛇足の蛇足 | 烏楽(SiestaWeb) |
The Final Showdown | 桂瀬衣緒(SiestaWeb) |
teatime | 桂瀬衣緒(SiestaWeb) |
表紙・イラスト/烏楽
文庫版・本文96ページ
予価450円
4月5日そうさく畑にて発行
(SiestaWebにて委託)
学年末テスト最終日。最後の科目である生物の答案を回収し、いまいち面識のない監督教諭が颯爽と教室を出て行くと、 「ね、悠里。春休みって何か予定ある?」 目の前に座っていた少女が、待ってましたとばかりに勢いよく振り返った。 彼女の名は塔崎洸香。名簿順に並ぶと前後の関係になるのもあって、一年の頃からの友人である。「一組のお母さん」とも呼ばれ、親しみあふれる彼女だが、この辺じゃ知る人ぞ知る名家のご令嬢で、ついでに名前からも察しがつくように、光塔館(この学校)創設者の血筋だったりもする。 自由……と言うよりかなりアバウトな校風を持つこの学校。現在校長を務めるのが彼女の祖父らしいが、彼の姿を誰も見たことがないなど、妙なところが謎に包まれていたりする。まぁ、とにかくあまり厳格な家ではなさそうだ。 「ん? 部活くらいかな? なんで?」 勢いに気圧されつつ返答すると、彼女は笑顔で、 「じゃあ部活休んで」 唐突なうえ、えらく強引なセリフを口にした。 その後、問い返す暇も与えずに、目の前の少女はニヤリと笑みの質を変えると、 「修学旅行、やり直すよ」 簡潔に、企みを告げる。 ―――……な、んだって? 全身から一気に血の気が引いていくのがわかる。 「悠里、修学旅行行けなかったじゃない? だから、代わりにどっか一緒に行きたいなって」 「え、でも…」 「と言ってもお金ないし、行き先は塔崎(うち)の別宅になるんだけど」 ……「別宅」。敢えて「別荘」という言葉を避けたのだろうが、どっちみち意図するところは同じだ。普段の彼女を見ていると忘れそうになるが、彼女は本物のお嬢様だった。 ちなみに彼女の財政は月額三千円の小遣い制。お金がないのは本当だ。支給日までの日数と手持ちによっては缶ジュースさえ我慢する。 「え、っと」 「なんにもないとこだから、そんな長くいても仕方ないけど。でも一泊くらいで、のんびり騒げたら楽しいかなって」 そりゃ、そう出来たならどんなにいいかと思うけど。 どうしよう。 上手い言い訳が、思い浮かばない。 「……嫌?」 寂しそうな声で、懇願するような極めつけの上目遣い。 ―――ノーなんて、言えるわけない。 あぁ、もう、まったく、 なんて最高で―――最悪な、展開。 覚悟を決めて、口を開いたその瞬間、 「なんの話?」 頭の上に、重いものが載せられた。 「……っ!?」 驚いた拍子に、ゴトン、と重々しい音を立てて降ってきたのは物理の教科書。 「終わったんだからとっとと退け。俺の席だ」 「もー、帰ってくるの早すぎだよ、藤原」 洸香が不服そうに口をとがらせる前で、仕方なく立ち上がる。そうして、頭を押さえながら、別教室から帰ってきた物理選択の少年を見上げた時、 ―――あ。 私は、とてもいい方法があることを思い出した。 「洸香。春休み、旅行、行こう」 にっこり、笑顔で返答する私の前には、 最高の笑顔で万歳する少女と、 あからさまに眉をひそめる少年がいた。
(The Final Showdownより)
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