「短編・ショートショート」カテゴリー
居眠り
2005/08/30 00:07 □ 短編・ショートショート
いい日和だった。
僕は友人の田上を連れて電車に乗った。どこに行きたいという訳ではないけど、こんな日にじっとしているのがもったいない気がしたのだ。
座席にふたり並んで座っていると、雰囲気でお互いに何を考えてるかわかった。
すなわち、「ここに一緒にいるのがコイツじゃなければ…あぁ、彼女ほしい…」。
しかし、口に出してもお互いむなしくなるだけだということは充分わかってたから、あえて口にしなかった。
とはいえ、こんな天気のいい日に電車のなかで、ちらちらと相手の様子をうかがって何もしゃべらない男子高校生ふたり組み、なんていう設定は、ひょっとして他人から見ればアヤシイ関係に見えるんじゃないか?
そういうわけで僕は何か話題を探しはじめた。いつもいつも学校で一緒のこいつと一体何をしゃべればいいんだ?
「いい天気だな」と言ってみたところで「そうだな」とかえされて終わりになりそうだ。だいたいわざわざ話題にすることじゃない。
何かいいネタないかな、と車内を見まわしてみる。
天気のせいで結構多くいた乗客も、さっき止まった駅でほとんど降りていた。
残っている客もマンガや新聞を読んでいるくらいでたいした特徴もない。
つまんねぇな…と思ったその時だった。
僕はチラッと目をやったその先に、居眠りをしている若い女性を見つけた。
「あれ?」
「ん?」
田上が、どうかしたのか?と横で首をかしげる。
「あ、いや、あの人さぁ、ずっとあそこにいないか?」
「そういやそうかもな。でもたいしたことじゃないだろ?」
「まぁそうだけど…ずっと眠ったままだぞ?変じゃないか?」
「あ、そういや、もう主要な駅は八つぐらい過ぎてるな。」
僕達は今日、行けるところまで行ってみようなどと終点までの切符を買っていた。この電車は終点まで行くととんでもない田舎町につくらしい。
「僕らが乗ったときは、あの人もういたぞ、っていうかずっと寝たままだ。」
「乗り越してるんじゃないか?」
「これからどんどん田舎のほう行くぞ。起こしてやったほうがいいんじゃないか?」
「いや、でも…」
「そうだなぁ……ま、いっか。ほっとこ。」
「そのほうがいいと思う。」
しかし、終点まであと三駅というところになってもその人は起きなかった。
電車の窓に映るのは見渡す限りの田んぼと畑だった。
車内には僕らとその人以外、誰もいない。
僕はふと気づいた。
「なぁ。あの人やっぱり変じゃないか?」
「そうだなぁ、やっぱり起こしてやったほうがいいよなぁ。」
「いや、そうじゃなくて…」
「何だよ。」
「あの人…ずっと動かないんだよ。ピクリとも…」
田上の表情が変わる。
「ま、まさか…冗談だろ?」
「おまえも見てたはずだ。……やばいぞ、あの人…」
「し、死んでるってのか?」
そう言えば彼女の顔は真っ白だった。まるで死人のように―。
電車はゆっくりと進んだ。
「やっぱり、車掌さん呼んだほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。じゃあ僕が行ってくる。」
「えぇえ?おれひとりかよ。」
「一緒に行くか?死体の前通らなきゃならないぞ。」
「ひとりにされるよりましだ。」
「田上…おまえ、怖がりだったのか…。」
「そうだよ。悪いか?」
――田上は開き直っていた。
「んじゃ、行くぞ。」
「お、おう。」
おそるおそるその死体の前を通ろうとしたときだった。
『太田ぁ、太田です。』
車内アナウンスが響き渡った。終点のひとつ前の駅に着いたのだ。
「うわぁ」
田上が小さな悲鳴を上げる。
「落ち着けよ、アナウンスぐらいで…」
「ばか、ちげーよ。」
「え?」
死体が目をあけていた。
「……」
死体はそのまま、たった今開いたドアをくぐるとさっさと太田駅の改札を出ていってしまった。呆然と立ち尽くす僕らを尻目に。
「おねえさん。化粧、濃いよ………?」
The Survival Game
2005/08/30 00:06 □ 短編・ショートショート
三人の人間が賭けをした。
ひとりは若い女、ひとりは若い男、そしてひとりは年老いた男。賭け好きの三人は、街の小さなバーで知り合った。彼らは皆、資産家で、金なら腐るほどあった。三人はいろいろな賭けをして楽しんだ。
はじめはバーで、次に入ってくる客が男か女かを賭けた。なぜか青年が強かった。青年は、俺は女のにおいをかぎわけるのだ、と言った。
次に、入ってくる客が男女のふたり連れであるか否かを賭けた。なぜか女が強かった。女は、女の勘ってやつかしら、と言った。
そして、入った客が何をたのむかを賭けた。なぜか老人が強かった。老人は、年の功じゃ、と言った。
三人は根っからの賭け好きだった。
ある時、女が言った。
「今度は私にテーマを決めさせて」
男達はそれに同意した。
次の日、女は男達に何かの書類へサインさせた。女は言った。
「次の賭けに必要なものよ」
次の日、女は来なかった。男達は借金でも背負わされたかと話した。
男達の家には地図が送られていた。場所は女の所有地、太平洋の小さな島。女がどんな賭けを持ち出すか、想像するのを楽しみながら、男達は「会場」へ向かった。
女の別荘、そこが会場だった。真っ白なドレスをまとった女がでむかえた。別荘には召使いがひとりいた。女は客人達を一室にまねきいれると、召使いに紅茶を持ってこさせた。
女は賭けの内容は夜になってから話すと言った。それまでは想像だけで楽しむようにと。男達はそれに従った。
夜になって、男達は女に内容を話すようにせまった。女は笑顔で召使いを呼んだ。彼は三枚の紙を持ってあらわれた。それは以前、男達がサインした書類だった。彼は、紙を静かに女の前のテーブルに置くと、一礼し、ドアに向かった。
女は彼を呼び止め、なぜかひとことあやまった。
彼が振り向き、首をかしげたその刹那、女はどこからか黒光りする銃を取り出し、彼の頭を撃ち抜いた。困惑した表情のまま召使いは床に倒れた。銃口を顔に近づけ、女は笑顔で言った。
「これが賭けの内容です」
女がサインさせたのはある契約の書類だった。女が死んだ場合は青年に、青年が死んだ場合は老人に、老人が死んだ場合は女に、所有の財産が転がり込むようになっていた。
女が持ち出した賭けは「誰が生き残るか」。三人はそれぞれ自分に賭ける。賭けに勝てばふたり分の財産が手に入るが、負けることは自らの死を意味した。
女は命がけで楽しんでいた。青くなるふたりに女は笑顔で一丁ずつ銃をわたした。弾は五発。殺さなければ殺される。
女は言った。
「午前三時にゲームスタートです」
ゲームは始まった。すでにひとり殺している女にかなうものはなかった。青年が女に銃を向け躊躇している間に、女は笑顔のまま老人を撃った。老人は銃を手にしたまま誰をねらうことなくその場に倒れた。
部屋にころがる血まみれのものがふたつになった。
女はその勢いで青年に銃を向けた。青年は叫んだ。
「そんなに金が欲しいのか!」
女は笑った。
「別に?そんなもの欲しいわけじゃないわ」
「だったら…!こんな…人殺しまでして何が望みなんだ!!」
「…そうね…『スリル』っていうのが妥当なところかしら?」
「…狂ってる!」
「そうかもしれないわね…でもそれは私にとってほめ言葉よ」
女は話し始めた。
「私はね、小さい頃から賭け事が大好きなの。よくやるでしょ?『針千本のーます』って。あれも私に言わせれば一種のギャンブルよ。相手は私がうそついて自分がうそつかないほうに、私はその逆に賭ける。私の場合、相手は姉だったわ。そして…私は賭けに勝った」
女は遠い目で続けた。
「でも姉は契約を守ろうとしなかったの…。私むりやりのませたわ。姉は千本のまないうちに死んじゃった。だから、残りはおなかのなかにたたき込んでやったわ。当然でしょ?契約は契約。賭け事において契約違反と途中放棄は重大な罪だわ。そうでしょ?」
女は笑顔に戻ってたずねた。
「…ああ」
「何を恐れているの?こんなに楽しいゲームなのに!」
女は、銃を向けたまま引き金を引こうとしない青年に向かって静かに言った。
「私がテーマを決めるのに同意した以上、あなたもゲームのルールに従う義務があるわ。………撃たないのなら…あなたも契約違反ね。もうおやすみなさい…。」
女は青年の胸をねらった。かわいた音とともに青年は倒れた。
青年は最後の力で銃を女に向け、引き金に指をかける。が、弾は発射されることなく、青年は力つきた。
「私の勝ちね」
女は銃を上に向けた。ゲームの終わりを告げ、また勝利の祝いとなる残酷なクラッカーをならそうと引き金を引く。その一瞬後、女は自らの血液でドレスを真っ赤に染めあげその場に倒れた。暴発した銃の餌食となって―――。
そして、静寂がおとずれた。
「Game Over …」
数分後、立ち上がった人物が言った。他の三人はもうただの肉のかたまりになっていた。
助けを呼ぶため電話をかけてから、ソファに腰をおろし、人物はある死体に言った。
「年の功だって言ったろ?お嬢さん」
こうして老人は誰ひとり殺すことなく巨万の富を得た。
彼のしたことは「死んだふり」のみだった――。
「牛」 (改稿前)
2005/08/30 00:05 □ 短編・ショートショート
※閲覧注意。直接表現はないですが少々グロいです。
「こら!寝ながら食べるのやめなさい!」
ママは言いました。
「まぁくん!牛になっちゃうわよ」
「牛になったら寝てくらすもん。いいよぉだ」
まぁくんは言うことをききません。
そしてまぁくんはそのまま眠ってしまいました。
朝になって目を覚ますと、ママがまぁくんの顔を不思議そうにのぞき込んでいました。
「おはよう、ママ」
ママは答えません。不思議そうな顔のまま、パパに話しかけました。
「ねえ、パパ」
「なんだい?」
「どうしてこんなところに牛がいるのかしら」
「うし? なんのこと? ママ」
まぁくんがたずねてもママは答えません。まるで聞こえていないようです。
「本当だ。牛だね。きっと今日の晩ごはんのために神さまが与えてくださったんだよ。今日はスキヤキにしようか」
「だめよ。いつものに決まってるじゃない」
「ねえ、ママ。うしなんていないよ?」
まぁくんの声は誰にもとどきません。 まぁくんは鏡を見ましたが、まぁくんは牛にはなっていませんでした。
しかし、まぁくんを見ながら恐ろしい笑みを浮かべてママは言いました。
「おいしそうな牛ねぇ」
そしてその夜、まぁくんはソーセージになりました。
まぁくんを食べながらママは言いました。
「今度はもっと素直そうな子を選びましょうよ」
「そうだねぇ」
「四丁目の山田さんとこのけんちゃんなんかどうかしら」
「いい子に育ちそうだね」
「時期もいいわよ。ちょうど十ヶ月くらいだったはず」
「よし。あしたは用があるからあさってにしよう」
「はあ…五年も育てたのにまぁくんなんか生意気にしからならなかったわ。その前もよ。けんちゃんはうまくいくかしら」
「なぁに。うまくいかなかったらまたこうすればいいことさ」
「そうね。あぁ、あさってが楽しみだわ」
そういってパパとママは笑いました。