Twitter300字SS「選択の期限」「空を飛ぶ」
2018/06/02 22:13 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「空」
ジャンル : オリジナル
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『選択の期限』
晴れ渡った空の青に入道雲の白。
夕焼けの赤に浮かぶ三日月と金星。
時には今にもなにかが降ってきそうな寒々しい曇り空。
丘の上のベンチに腰掛け、美しい空を見上げるのが僕の日課だった。
名も知らぬアーティストが作り上げた色彩。
この空を見られるのは、明日まで。
「綺麗だね、お父さん」
いつの間にか隣に座っていた娘をそっと抱き寄せる。
曾祖父さんが生まれる前、地上に何かが起き、人類は地下に潜った。
空という名の照明も、温度と空気の調整も。
利用してきたエネルギーが尽きるとわかったのは、たった数日前。
どうなっているかもわからない地上に出るか、それとも僕の知る世界とともに穏やかに生を閉じるか。
選択の期限まで、あと十二時間。
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『空を飛ぶ』
いってらっしゃいと手を振って三〇分。
空は快晴。が、どうやら風がよくないらしい。
時折無線機から状況連絡の声が聞こえる。
山のてっぺん、木のない一角。
見つめ続ける私の背に、あなたも行ったらいいのにと、常連のご婦人が笑う。
「世界が変わるよ」
目を開いていられる自信がないから遠慮するけど、それはきっと本当なんだと思う。
「そろそろいけるって」
無線機片手に男性が言う。
スマホ画面の向こう側、標高五八〇m地点でふわりと傘が開いた。
七〇歳の誕生日、父親が空を飛んだ。
地元のパラグライダースクールで、時間にして五分ほどの空の旅。
「こんなにええもんとは思わんかった」
世界は変わっただろうか。
今年の誕生日も予約済みだそうだ。
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『選択の期限』はご想像にお任せしますな終わり方で、『空を飛ぶ』はノンフィクションです。
どちらも自分としては珍しい感じになりました。