『光塔館異人録』三部構成中第一話の半分にあたります。
切りが悪かったので、ぶっちゃけ約30ページ分。本自体の三分の一です。
正直、最後まで含めると内容的には今までで一番ツッコミどころの多い話だったりします。
自分の能力超えて思いつかなかった箇所ごまかしてごっそり省いたからね!(ぉ
—–
# 第一話
唖然──その一言に尽きる。
──なんだこれは。
目の前には真新しい一軒の家。
建物自体にこれといって変わったところはない。強いて言うなら、簡素な門には少々不釣り合いと思われる、重々しい石板がかかっていることくらい。
石板に彫り込んである文字は
「光塔館」
の三文字。
──いつの間にこんなものを……
* * *
高校を出たらこの家を出て一人暮らしをはじめよう。ずっとそう思っていた。
だから大学が決まってすぐに、近くの不動産屋へ駆け込んだ。めぼしいものを見つけ、親に契約の希望を伝える。
未成年で部屋の契約など出来るはずもない私は常日頃から一人暮らしの意志があることをアピールしていたので、両親どころか親戚みんな、いや、ご近所の方々にまで知れ渡っているはずだ。
だから両親は二つ返事でOKするはず。
にっこり微笑んだ両親。その口から出たのは。
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」
「──」
冷たい声と予期せぬ言葉に、こちらは思わず凍り付く。
冗談にしてはあまりにも目が本気の両親を前にして、言葉がうまく出てこない。
「お前なぁ。うちがどんな家かわかって言ってんだろうな?」
「そうよ。アンタ腐ってもこの塔崎(とうざき)家の一人娘よ? それがこんな安アパートに一人暮らしとか馬鹿も休み休み言えってのよ」
腐ってるは余計だと思いつつ、私はなんだか衝撃を受けていた。
──うちってひょっとして名家だったのか?
確かにそこそこ金持ちではあると思う。
この両親の口調では威厳を感じさせるどころか場末っぽいが、家は広い方だと思うし、使用人と呼ばれるような人たちも何人かいたりする。
でも私はあくまで極々普通の子であって。厳かな名前のお嬢様学院に通っているわけでもなく、近くにある公立の共学高校へ通う普通の女子高生。財政に至っては月額三千円の小遣い制である。勉強関連のものなら別計算として買ってもらえるし、特に欲しいモノもないので不自由はしていないけど、一般的に見ればむしろ少ないんじゃなかろうか。
それが、一人暮らしをするだけでこの言われよう。
どうやら、私は今まで十八年もの間、うちのレベルを知らずに生きてきたらしい。
言い換えれば、両親はあまり金をかけずに私を育ててきたということか。
……いや、不満はないから別にいいんだけど。
そう考えれば頷けないことはない。
要するに、私が家を出ていくとなれば話は別。
ご近所の方々には「金持ちだけどお高くとまっていない良い子」として都合よく見られているだろう私が、よりによってマジ庶民なアパート暮らしを始めたりなんかすると名家としてはいろいろと困ったりするわけで。
なるほど、とひとり納得すると、とりあえずぶち当たった問題に立ち向かうことにする。
私の通う予定の大学は、ギリギリ同じ県にあるとはいえ半端じゃない距離がある。とてもじゃないが自宅からなど通えない。
「で、私にどこで暮らせと?」
私のセリフに、今度は両親が驚いた顔をする。
「あんた、ホントに気づいてなかったんだ」
「一応隠してたとはいえ……まさかな」
何だ? 話が見えん。
屈辱に耐えながら私は言葉を口にする。
「……何の話?」
両親は一度お互いに顔を見合わせると、またこちらに向き直って言った。
「あんたの家ね」
「もう出来てんだよ」
* * *
「……はぁ」
新築の家を前に、溜息しか出ないこの状況。
まさかうちがこれほど金持ちとは思いもしなかった。
娘のために、それもたった四年間を過ごすためだけに、わざわざ家を建てるとは。
──なんてエコロジー精神のない親。
しかもなんかやけに広く見えるのは気のせいか。
見栄のためなのかなんなのか。パッと見、少なくとも風呂・トイレとリビング以外に八部屋くらいはありそうな造りをしている。
そう、ここ「光塔館」が明日からの、私こと塔崎洸香(ひろか)の家だった。
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