三人の人間が賭けをした。
ひとりは若い女、ひとりは若い男、そしてひとりは年老いた男。賭け好きの三人は、街の小さなバーで知り合った。彼らは皆、資産家で、金なら腐るほどあった。三人はいろいろな賭けをして楽しんだ。
はじめはバーで、次に入ってくる客が男か女かを賭けた。なぜか青年が強かった。青年は、俺は女のにおいをかぎわけるのだ、と言った。
次に、入ってくる客が男女のふたり連れであるか否かを賭けた。なぜか女が強かった。女は、女の勘ってやつかしら、と言った。
そして、入った客が何をたのむかを賭けた。なぜか老人が強かった。老人は、年の功じゃ、と言った。
三人は根っからの賭け好きだった。
ある時、女が言った。
「今度は私にテーマを決めさせて」
男達はそれに同意した。
次の日、女は男達に何かの書類へサインさせた。女は言った。
「次の賭けに必要なものよ」
次の日、女は来なかった。男達は借金でも背負わされたかと話した。
男達の家には地図が送られていた。場所は女の所有地、太平洋の小さな島。女がどんな賭けを持ち出すか、想像するのを楽しみながら、男達は「会場」へ向かった。
女の別荘、そこが会場だった。真っ白なドレスをまとった女がでむかえた。別荘には召使いがひとりいた。女は客人達を一室にまねきいれると、召使いに紅茶を持ってこさせた。
女は賭けの内容は夜になってから話すと言った。それまでは想像だけで楽しむようにと。男達はそれに従った。
夜になって、男達は女に内容を話すようにせまった。女は笑顔で召使いを呼んだ。彼は三枚の紙を持ってあらわれた。それは以前、男達がサインした書類だった。彼は、紙を静かに女の前のテーブルに置くと、一礼し、ドアに向かった。
女は彼を呼び止め、なぜかひとことあやまった。
彼が振り向き、首をかしげたその刹那、女はどこからか黒光りする銃を取り出し、彼の頭を撃ち抜いた。困惑した表情のまま召使いは床に倒れた。銃口を顔に近づけ、女は笑顔で言った。
「これが賭けの内容です」
女がサインさせたのはある契約の書類だった。女が死んだ場合は青年に、青年が死んだ場合は老人に、老人が死んだ場合は女に、所有の財産が転がり込むようになっていた。
女が持ち出した賭けは「誰が生き残るか」。三人はそれぞれ自分に賭ける。賭けに勝てばふたり分の財産が手に入るが、負けることは自らの死を意味した。
女は命がけで楽しんでいた。青くなるふたりに女は笑顔で一丁ずつ銃をわたした。弾は五発。殺さなければ殺される。
女は言った。
「午前三時にゲームスタートです」
ゲームは始まった。すでにひとり殺している女にかなうものはなかった。青年が女に銃を向け躊躇している間に、女は笑顔のまま老人を撃った。老人は銃を手にしたまま誰をねらうことなくその場に倒れた。
部屋にころがる血まみれのものがふたつになった。
女はその勢いで青年に銃を向けた。青年は叫んだ。
「そんなに金が欲しいのか!」
女は笑った。
「別に?そんなもの欲しいわけじゃないわ」
「だったら…!こんな…人殺しまでして何が望みなんだ!!」
「…そうね…『スリル』っていうのが妥当なところかしら?」
「…狂ってる!」
「そうかもしれないわね…でもそれは私にとってほめ言葉よ」
女は話し始めた。
「私はね、小さい頃から賭け事が大好きなの。よくやるでしょ?『針千本のーます』って。あれも私に言わせれば一種のギャンブルよ。相手は私がうそついて自分がうそつかないほうに、私はその逆に賭ける。私の場合、相手は姉だったわ。そして…私は賭けに勝った」
女は遠い目で続けた。
「でも姉は契約を守ろうとしなかったの…。私むりやりのませたわ。姉は千本のまないうちに死んじゃった。だから、残りはおなかのなかにたたき込んでやったわ。当然でしょ?契約は契約。賭け事において契約違反と途中放棄は重大な罪だわ。そうでしょ?」
女は笑顔に戻ってたずねた。
「…ああ」
「何を恐れているの?こんなに楽しいゲームなのに!」
女は、銃を向けたまま引き金を引こうとしない青年に向かって静かに言った。
「私がテーマを決めるのに同意した以上、あなたもゲームのルールに従う義務があるわ。………撃たないのなら…あなたも契約違反ね。もうおやすみなさい…。」
女は青年の胸をねらった。かわいた音とともに青年は倒れた。
青年は最後の力で銃を女に向け、引き金に指をかける。が、弾は発射されることなく、青年は力つきた。
「私の勝ちね」
女は銃を上に向けた。ゲームの終わりを告げ、また勝利の祝いとなる残酷なクラッカーをならそうと引き金を引く。その一瞬後、女は自らの血液でドレスを真っ赤に染めあげその場に倒れた。暴発した銃の餌食となって―――。
そして、静寂がおとずれた。
「Game Over …」
数分後、立ち上がった人物が言った。他の三人はもうただの肉のかたまりになっていた。
助けを呼ぶため電話をかけてから、ソファに腰をおろし、人物はある死体に言った。
「年の功だって言ったろ?お嬢さん」
こうして老人は誰ひとり殺すことなく巨万の富を得た。
彼のしたことは「死んだふり」のみだった――。
とても面白かったです♪
意外な展開の連続に、先が読めなくて、ワクワクしました!
途中から、女と青年の相討ちENDになるのかな……? と予想していたら、まさか老人が「死んだふり」をしていて、勝って生き残るとは! 予想外で驚きました!
このおじいさん、なんだか粋で、かっこいいですね(*^∪^*)♪