Twitter300字SS お題「時」
ジャンル : オリジナル。
『小早川時計店1』
「困ってるの」
「どれ、見せてごらん」
五歳くらいだろうか。訪れた幼いお客様は店主の手のひらへ小さな時計を差し出した。
「なるほど」
確かに少女が言うように、秒針が逆に回転している。
「直せる?」
「多分ね」
「お願い。あまり時間がないの」
どこかに出かける予定でもあるのか、可愛いお客様は焦ったご様子。
ふたを開けて歯車を見るとやっぱりずれている。食い違いを直し、ついでに電池も入れ替えて時間を合わせる。
「はい、終わり」
顔を上げると既に少女の姿はなく。
「助かったわ」
少女によく似た妙齢の女性が笑っていた。
「間に合ってよかった。あれ以上若返ったらここにも来られなかったもの」
ここは小早川時計店。
壊れた時計が集う場所。
—–
『小早川時計店2』
「…ここは?」
「見ての通り時計屋だよ」
白髪頭の男が答える。その視線は手元の機械に。
「今これ修理中だから」
「あ、いや、俺は」
気がついたらここに居ただけで。
「ま、これでも飲め」
「紅茶?」
「潤滑油」
男は意味ありげに笑う。
世間話をしながら飲んだそれはやっぱり普通の紅茶だった。
「それ、随分安っぽいですね」
「拾いもんだからな。けど、ちょっとしたことで簡単に捨てちまうのはもったいないだろ?」
顔を上げた男の目にハッとする。見透かされたようで。
「腹が減ってると妙なことを考える。帰って美味いもんでも食え」
言われた途端に腹の虫が鳴いた。
「これ請求書な」
「請求書?」
金額は100円。
但し書きは、「腹時計修理代として」。
———-
珍しく微妙にファンタジック。
やっつけ感あるものの、無事参加できたのでよかったです。
なんかそこはかとなく某遺失物預かり所っぽい気も……?
コメントを残す