Twitter300字SS「小早川時計店」

2015/03/07 21:00 □ 短編・ショートショート

Twitter300字SS お題「時」

ジャンル : オリジナル。


 

『小早川時計店1』

 

「困ってるの」
「どれ、見せてごらん」
 五歳くらいだろうか。訪れた幼いお客様は店主の手のひらへ小さな時計を差し出した。
「なるほど」
 確かに少女が言うように、秒針が逆に回転している。
「直せる?」
「多分ね」
「お願い。あまり時間がないの」
 どこかに出かける予定でもあるのか、可愛いお客様は焦ったご様子。
 ふたを開けて歯車を見るとやっぱりずれている。食い違いを直し、ついでに電池も入れ替えて時間を合わせる。
「はい、終わり」
 顔を上げると既に少女の姿はなく。
「助かったわ」
 少女によく似た妙齢の女性が笑っていた。
「間に合ってよかった。あれ以上若返ったらここにも来られなかったもの」

 ここは小早川時計店。
 壊れた時計が集う場所。

 

—–

 

『小早川時計店2』

 

「…ここは?」
「見ての通り時計屋だよ」
 白髪頭の男が答える。その視線は手元の機械に。

「今これ修理中だから」
「あ、いや、俺は」
 気がついたらここに居ただけで。

「ま、これでも飲め」
「紅茶?」
「潤滑油」
 男は意味ありげに笑う。
 世間話をしながら飲んだそれはやっぱり普通の紅茶だった。

「それ、随分安っぽいですね」
「拾いもんだからな。けど、ちょっとしたことで簡単に捨てちまうのはもったいないだろ?」

 顔を上げた男の目にハッとする。見透かされたようで。
「腹が減ってると妙なことを考える。帰って美味いもんでも食え」
 言われた途端に腹の虫が鳴いた。
「これ請求書な」
「請求書?」

 金額は100円。
 但し書きは、「腹時計修理代として」。

 

———-

 

珍しく微妙にファンタジック。

やっつけ感あるものの、無事参加できたのでよかったです。

なんかそこはかとなく某遺失物預かり所っぽい気も……?

 


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