Twitter300字SS お題「花」 → どっちも「桜」で。
ジャンル : オリジナル。
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『桜の下には』
慌ただしい日々は季節を忘れさせる。
「もうそんな時期か」
微かに聞こえたその声に足を止める。
人気のない道を抜けると、目の前には満開の桜。
その下で、少女は歌っていた。
魅了されて何年になるだろう。
この時期だけに現れる少女の、他の誰にも聞こえない――おそらくこの世のものではない――その声に。
哀しく優しく時に激しく。
目を閉じたまま少女は歌い上げる。
歌が終わると、目を開けた彼女は僕を見つめ、
そして哀しげに、自らの足下へ視線を送る。
「素晴らしかったよ」
微笑みかける。
いつものように、視線の意味には気づかないふりをして。
君の望みを叶えたら、
きっと君は消えてしまうだろう?
だから、見つけてあげない。
君は僕だけの歌姫。
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『花が咲いたら』
寺の老木を剪定したとかで、近所の婆さんから桜の枝をもらった。
男の一人暮らしに花? とは思ったが、昔の花瓶を引っ張り出してみるとなかなかどうして、悪くないもんだった。
部屋が寒いからか桜はゆっくりと成長した。
堅いつぼみが一日一日膨らんで、花びらが見え始める。
明日には咲くかな。
娘の成長を見守る父親ってこんな感じだろうか。いや俺、彼女すらいないんだけど。
あぁ、この花が散るまでだけでも、桜の精が恩返しに来てくれたりしないだろうか。
翌日、仕事から帰ると部屋に灯りがついていた。
それに味噌汁の匂い。
驚いていると台所から出てきたピンクのエプロン姿が跪いた。
「桜の精にござる」
あぁ、うん。そういえば、老木だったよね。
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単純なもんで、時期的に、どうしても桜に流れてしまうなぁ。
2つ目がこうなったのは、桜が儚い綺麗なイメージばっかになるのが嫌だったのかもしれんw
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