「手」

2005/08/30 00:17 □ 短編・ショートショート

 ずっとあなたを待ってる。
 雨の降る日も、かんかん照りの日も、木枯らしの吹く日も、雪が積もる日だって。
 ずっとずっと私はあなたを待ってるの。

 

 あなたの手が好きだった。
 あなたの大きな背中が好きだった。
 ぶっきらぼうなその話し方も、何もかもが好きだった。

 でもあの時、一緒に暮らせたらいいのにと言った私を、あなたは殺した。

 あれはほんの冗談のつもりだったのよ?
 あなたの生活を壊す気なんて全然なかったの。

 週に一度しか会えなかったけど、私は満足してた。
 ただ、あなたがそばにいてくれるだけで幸せだったの。

 誰も私とあなたとのことを知らなかったのね。
 あなたの奥さんも、あなたの子供も。

 あなたのもうひとりの子供がここにいるなんて。

 ねぇ、父さん。
 公園の大きな木の下でずっとあなたを待ってるの。
 あなたが最後に触れた、この手を伸ばして。
 もう冗談でも一緒に暮らしてなんて言わないわ。
 だからお願い。もう一度だけ。
 もう一度だけ、やさしくこの手に触れてほしいの。


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