Duplicate Key

2005/08/30 00:21 □ 短編・ショートショート

 私が彼と出会ったのはちょうど一年前。
 今日も私は仕事の帰り、彼の家へと向かう。
 彼は恥ずかしがり屋さんだから何も言わない。
 でも私にはわかるの。
 彼は私を愛してくれてる。

 だってそうでしょ?
 嫌いな女に、合い鍵を持たせておく?
 自分は外に出ないからって、ひとつしかない鍵を私にくれたのよ?
 だから私のはそこいらの女が持ってるようなやつじゃない、正真正銘、世界にひとつしかない、とってもとってもすてきな合い鍵なの。

 そう、一年前のあの時、降りしきる雨の中で、私と彼は運命的な出逢いをしたの。
 お気に入りの真っ赤な車で、仕事場から帰る途中だったわ。
 私の車の前をひとりの若い男が横切ったの。
 それが彼だった。
 彼は雨に濡れて、髪からしずくがポタポタ落ちてたわ。
 とってもすてきだった。
 こんな雨じゃタクシーもつかまらないだろうし、もともと人通りの少ない道だったから、私、彼をのせてあげることにしたの。
 座席が水浸しになっちゃったけどそんなこと気にしない。
 こんなすてきなヒトと車の中でふたりっきり。
 バカみたいだけどすっごくドキドキしたわ。
 彼はしゃべりかけてもなにも答えてくれなかった。
 行き先すら答えてくれなかったのよ?
 しかたないから荷物からこぼれ出てた免許証の住所を見たの。
 本当、あの時からシャイだったのね。

 彼の家は最新のセキュリティシステムを導入した高級マンション。
 家賃も高いはずなのに彼はひとりで暮らしてるみたい。
 一体どこで働いているのかしら?
 聞きたかったけど初めて会ったヒトなのに失礼かなと思ってやめたわ。
 それに彼の雰囲気からして、あぶない仕事とかしてるヒトかもしれないと思ったから。
 なんだかミステリアスでますますすてきよね。

 それから一年経った今でも彼はずっとかわらない。
 あの頃のようにずっとすてき。
 でも彼が一番すてきだったのはやっぱりあの時よ。
 本当、タイヤの下で真っ赤に染まったあなたの姿──忘れられないわ。

 絶対にはなさない。
 誰にも渡さないわ。
 彼はずっと私のものよ。
 合い鍵をくれた私の大切な人。
 合い鍵──指紋照合で使うあなたの親指、なくすのがこわくてずっとポケットに入れてるっていったらあなたは笑うかしら?

 そろそろ、有効期限が切れるころだわ。
 今日は防腐剤、忘れずに買っていくわね。

 愛してるわ。私の運命のヒト。


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