Twitter300字SS お題「灯す」
ジャンル : オリジナル
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『灯籠流し』
辺りが暗くなると水音に虫の声が重なり始めた。
晩飯時だが近くの家には灯りがない。今年は村の全員がここにいるからだ。
ふいに隣で灯りがともる。
ひとつ、またひとつ。
弱々しい光が薄紙の向こうで揺らめきながら、ゆっくりと目の前を流れてゆく。
あれは今年亡くなった徳さんの。
一昨年死んだばあちゃんのは可愛い花柄。
ひとつひとつが誰かの慰霊の意味を持つ流し灯籠は、しばらくすれば水に沈む。
明るいのは今だけだ。
照らされた顔はみんな穏やかなものだった。
「さて、帰りますか」
壮年の男が立ち上がる。
「そうですね、徳さん」
各々が各々の灯籠にふわりと飛びのる。
人口減少によって灯りの消えた故郷を巡ったあと、灯籠は静かに川底へ消えた。
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『百物語のその後は』
数年前。この町の外れに崩れかけの空き家があって。
あるとき夜中に子供の泣き声が聞こえて…
暗い部屋で炎が揺れる。
灯された蝋燭の向こうで、青白い顔の女性は話を続けた。
膝の上で握りしめた手は小さく震え、周りは緊張した面持ちで話の行方を見守った。
戯れに始めた百物語。
百話めを話し終えた瞬間、現れた怪たち。
消した蝋燭に火を灯しながら、彼らが始めた新たな百物語は随分リアルで、うんざりしていた私たちも手に汗握っていた。
気になって見に行ったら声は涸れた井戸からで…
うわー!
耐え切れず隣の怪が叫ぶ。
恐ろしい…話もできない相手をどうやって助けたらいいんだ…!
優しい怪たちの知恵と勇気の九死に一生スペシャルは朝まで続いた。
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『灯籠流し』珍しくちょっとしんみり。
『百物語のその後は』「ろうそくの火の下で」の続きでした。本当に朝までで済んだらいいね…?
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