2019/03/02 21:01 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「涙」
ジャンル : オリジナル
『MP300』
泣き虫だった僕がもう二度と泣かないと誓ったその日。
大型トラックが突っ込んできて、目を覚ましたら知らない場所にいた。
盗賊っぽいのに囲まれて困惑する僕を助けたのは、謎のマジカルパワーを使うおっさんで、
これは多分…あれだ、異世界。
…まぁその辺は無理やり飲み込むとして、なんで余裕でぶちのめしといて号泣してるのこの人?
「涙は魔力の源なのさ」
あ、日本語通じた。
事情を説明すると
「力を感じる。我らと一緒に魔王を倒してくれ」
勧誘された。
彼らは泣くことによって力を使うらしい。
「や、僕泣かないんで」
「泣かなくても力は使えるさ」
魔王を倒せば元の世界に多分戻れると説得された。
涙を我慢した僕の魔法は鼻から出た。帰りたい。
—–
涙を我慢すると鼻水になるらしいよ?
2019/02/02 22:03 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「薬」
ジャンル : オリジナル
『病み上がりの特権』
朝起きると、体の怠さはきれいさっぱり消え去っていた。
「全快っぽいけど、んー」
疲れが出たんだろうと今週いっぱい休みにしてくれた仲間に甘えることにしよう。
階下では若干冷めた朝食が迎えてくれた。
洗面所からボサボサ頭が顔を出す。
「おはよう、嫁。調子は?」
二言三言言葉を交わすともう出勤時間。
「大人しくお留守番してるんだよ?」
子供扱いして玄関に向かうその背を追う。
「あ、なんかほしいもんある?」
「薬かなぁ」
「え、まだ体調――」
振り返るその首を両腕で捕まえる。
「んーん、回復完了。いってらっしゃい」
面食らった顔にひらひらと手を振る。
接種した回復薬の柔らかい感触にニヤつきながら、病み上がりは二度寝することにした。
—–
もう一本くらい書きたかったけど断念。
というか、なんでこんなだだ甘になったん…?
「風邪引きの特権」のふたりのイメージです。懐かしい~
2018/12/01 21:09 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「灯す」
ジャンル : オリジナル
『灯籠流し』
辺りが暗くなると水音に虫の声が重なり始めた。
晩飯時だが近くの家には灯りがない。今年は村の全員がここにいるからだ。
ふいに隣で灯りがともる。
ひとつ、またひとつ。
弱々しい光が薄紙の向こうで揺らめきながら、ゆっくりと目の前を流れてゆく。
あれは今年亡くなった徳さんの。
一昨年死んだばあちゃんのは可愛い花柄。
ひとつひとつが誰かの慰霊の意味を持つ流し灯籠は、しばらくすれば水に沈む。
明るいのは今だけだ。
照らされた顔はみんな穏やかなものだった。
「さて、帰りますか」
壮年の男が立ち上がる。
「そうですね、徳さん」
各々が各々の灯籠にふわりと飛びのる。
人口減少によって灯りの消えた故郷を巡ったあと、灯籠は静かに川底へ消えた。
—–
『百物語のその後は』
数年前。この町の外れに崩れかけの空き家があって。
あるとき夜中に子供の泣き声が聞こえて…
暗い部屋で炎が揺れる。
灯された蝋燭の向こうで、青白い顔の女性は話を続けた。
膝の上で握りしめた手は小さく震え、周りは緊張した面持ちで話の行方を見守った。
戯れに始めた百物語。
百話めを話し終えた瞬間、現れた怪たち。
消した蝋燭に火を灯しながら、彼らが始めた新たな百物語は随分リアルで、うんざりしていた私たちも手に汗握っていた。
気になって見に行ったら声は涸れた井戸からで…
うわー!
耐え切れず隣の怪が叫ぶ。
恐ろしい…話もできない相手をどうやって助けたらいいんだ…!
優しい怪たちの知恵と勇気の九死に一生スペシャルは朝まで続いた。
—–
『灯籠流し』珍しくちょっとしんみり。
『百物語のその後は』「ろうそくの火の下で」の続きでした。本当に朝までで済んだらいいね…?
2018/11/03 22:56 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「霧」
ジャンル : オリジナル
『祖母の薬を』
「…何してんの?」
霧深い夜。
帰ってくるなり台所に立ったルームメイトは、鞄の中からいそいそとそれらを取り出した。
「最近肩こり酷くて」
そう言って、祖母に教えてもらったという薬を作り始めた。
並べられた材料。
塩とミントの葉と…
「これとこれは?」
「桃の種の中身とジュズダマ」
懐かしいよねと笑いながら、彼女はそれらを適当に鍋に入れ、煮込み始める。
漢方?
民間療法?
どんな味なの…?
眉をひそめている間に薬は完成した。
そんなんでよくならないよ。だって。
彼女には見えていない。
肩に憑いた黒い影を眺める無力な私。
その目の前で。
シュッ
霧吹きに移された薬が影に命中した。
「これよく効くんだよね」
…うん。
で、あんたの祖母、何者?
—–
『Stalking』
繁華街を抜けると道は一気に暗くなった。
街灯の光が濃い霧に反射して、自らの輪郭をあやふやにしている。
マンションまで百メートルほど。
ここだけは田んぼど真ん中の何もないところを通らなければいけなかった。
何度目だろう。
微かに聞こえた足音に心臓が跳ねる。
居る。
深呼吸をして歩を進める。
振り返ってはいけない。
まだここにいたいなら、これ以上関わってはいけない。
オートロックのエントランスを抜け、エレベーターから外の様子を覗う。
闇の中、霧がゆらりと嘲った。
覚えた安堵は油断になる。
潜伏していたストーカーはドアを開けた瞬間、部屋に侵入した。
犯人の洗脳は凄まじく、奴隷となった被害者は現在、
猫と暮らせる物件を探している。
—–
『祖母の薬を』意外と飲んでも効くかもしれない。
『Stalking』は読めたかなって感じですが安定の猫オチです。洗脳されたい!!
2018/10/06 21:33 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「食べる」
ジャンル : オリジナル
『奇跡の才能』
やぁ、久しぶりだね。
おかげさまでこの通り元気だよ。
あぁ、懐かしいね。
君のおかげで有終の美を飾れた。
本当に感謝してるよ。
かつての同級生は言う。
歌えない。
震えた声を思い出す。
何がきっかけだったのか。
この才能と努力の塊は、発表会の観客の前で、急に怖じ気づいた。
大丈夫。あれはカボチャだ。食っちまえ。
戯れの五円玉には魔力が宿り、そして伝説が生まれた。
あの日、観客をひとり残らず虜にして姿を消した歌手の卵は、十年後、日焼けした姿で畑にいた。
相変わらずだよ。
歌はこの子たちに聞かせるくらいかな。
まさか君にそんな才能があったなんてね。
ぼくが一番驚いてるさ。
カボチャ畑に歌声が響く。
あの日の暗示は、未だ解けていない。
—–
『奇跡の代償』にしようかと思ったけどあまりに重いのでやめました(汗
そして全然食ってねぇ…
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