「テキスト」カテゴリー
今まで書いたショートショート・小説等、文章置き場です。
拙すぎてカテゴリ名を「小説」とするのすらおこがましい気がしたので「テキスト」。
基本的にどんでん返しを目標に書いてたり、書いてなかったり。
高校時代とかに書いたものも結構あるので正直黒歴史ですが、面倒なので開き直って手直しもいいわけもなしです。
いくつかはイベントで無料配布した「夢見るものたち」に収録しています。
投稿が「夢見るものたち」より前の分に関してはほぼ全部学生時代に書いたもの。
ツッコミどころが満載なのは自分でわかってますので、そこは流していただけるとありがたい。
最近のもツッコミどころが多いのは大して変わりませんが、まぁ、まだマシかと。
伏線を意識し始めたのはCANDY ×GAMEシリーズの途中あたり(2005年)から。
そのへんから書くものがガラッと変わった気がします。
#よくある小説のように~出港前夜
2015/02/07 00:00 □ 城ノ内探偵事務所
「社員旅行?」
あからさまな不信感が声に出た。
来客も宅配も来ない、数件の依頼の電話以外は地銀からのお知らせメールが一件来たくらい。そんな珍しいくらい静かな一日の、定時まであと一時間という夕刻。ここ城ノ内探偵事務所の事務員である私、園田あかりは、上司の口から出てきた耳慣れない言葉に、思わず眉を寄せた。
「うん。この前浮気調査した佐々木さんね、ちょっと都合が悪いらしくて支払い分割にしてほしいんだって。真面目な人だったから、OKしたらなんか気ぃ遣われちゃって、こんなのくれたんだよね」
そんなことを言いながらひらりとこちらに寄越したのは『豪華客船ツアー』とかなんとか書かれた二枚のチケット。光沢のある分厚い紙のチケットはそれだけで格調高さを醸し出している。
「急だけど今度の土日、夕方出発一泊二日のワンナイトクルーズ」
手にした紙片を見返す。記載されているのは確かに上司が言うとおりの日時だった。
「しあさってですか? ホントに急ですね」
「あ、ちゃんと部屋は別だよ」
「当たり前です。……というか、もともと分割OKなのに、お詫びにしては豪華すぎませんか」
佐々木さんには失礼だけれど、なんかこう、不審なものを感じる。
「余り物らしいけどね」
「……城ノ内さん、最近恨みとか買ってません?」
「どういう意味、それ」
「いや、小説とかだとこういう場合、誰かが仕組んだりしてて、事件が起こったりとか……ねぇ?」
「まぁ、恨んでるやつは一杯いるだろうけどね。こんな商売だし」
「だったら……やめたほうがよくないですか?」
「行きたくない?」
「いや、そういうわけでは」
漠然とした不安を頭に巡らせながら、手にしたチケットを撫でると、加工された表面で指がキュッと音を立てた。真紅の地に載せられた客船の外観や食事の写真はとても魅力あるもので、もちろん興味を引かれないわけではない。
「じゃあ行こうよ、せっかくもらったんだし。日頃の慰労を兼ねて、初めての社員旅行」
ダメ? と、ねだるようにこちらを見る上司に、
「……じゃあ、はい。まぁ、確かにもったいないですしね」
頷いてはみたものの、不安は拭えない。
「大丈夫だよ。心配しなくても、妙なことはそうそう起こらないって」
「まぁ、普通ならそうですけど……」
「それにさ、もしそういう小説みたいなことになったとしても――」
私の表情にくすりといたずらっぽい笑みを返し、上司は言葉を続けた。
「――探偵は絶対、死なないからね」
*
金曜日。
自分の部屋に帰り着くと、私はまず、クローゼットを開け放った。
明日はついに社員旅行の日だ。たったふたりの事務所だと、社員旅行という呼び名はなんだか変な感じがしないでもないが、それでも間違いなく『社員旅行』だ。
「……初めてだなー」
考えてみれば、親戚の家に行く以外の旅行自体初めてかもしれない。仲良く団らんするような家族ではなかったし、そこまで親しい友達もいない。前の勤め先でも社員旅行はなかったから、旅行と言われて思い出すのは、修学旅行くらいだ。
だからだろうか。この二日間、仕事を残さないために色々忙しかったにも関わらず、どことなく浮き足立っている自分が居た。
もちろん不安は消えていない。行かないほうが、いや、行かせないほうが正解なんじゃないかと、何度も思った。
けれどそのたびに、上司は笑いながら私の頭を撫でた。
『大丈夫だって。心配してくれるのはありがたいけどね』
そりゃ心配もする。だってこの人に何かあったら、私の給料は誰が払ってくれるんだ。
それでも結局計画が中止になったりしなかったのは、意外と自信家な彼の笑みが、何故か、この人は大丈夫だと私に思わせたからだ。
実家を出た時に使った切りの小さなスーツケースに着替えと室内着を詰め込む。旅行というのは、あと何が必要だったか。
考えてみれば、そもそも何が用意されているのかわからない。
チケットには船の名前が載っていた。豪華客船の代名詞みたいに有名なものだったから覚えている。調べてみればアメニティくらいわかるだろう。
片隅に置かれたパソコンを立ち上げる。学生時代から使っている年代物のノートパソコンは、電源を入れて使えるようになるまでに随分と時間がかかる。そろそろ買い替えを考えなければいけない時期なのかもしれない。
カリカリとハードディスクが立てる音を聞きながら、ぼんやりと考える。
「……スタンガンか何か、買っとけばよかったかな」
護身になるものなんてこの部屋にはろくにない。包丁はさすがに持って行けないし。
まぁ、あの人なら何か持ってるか。なんたって人に恨まれやすい『こんな商売』なんだから。
検索サイトを介して表示された客船のサイトには、ちゃんと知りたい情報が載っていた。当たり前なんだろうけど、歯ブラシなんかは持っていかなくてよさそうで安心する。けれど、
「ドレスコード?」
目に入った見慣れない文字に戸惑う。あるとは聞いていないけれど、カジュアルでいいんだろうか。
思わず携帯を手にしたけれど、そのままテーブルに戻す。上司はまだ仕事中だ。今日は浮気調査が入っているし、多分夜中までかかる。邪魔は出来ない。
「まぁ、いいか。スーツとかで」
明日は十七時出港で待ち合わせは十五時半。最悪、近くで適当に買うか、翌日用の服に着替えよう。もう少し早くチェックしておくんだった。
なんとか荷造りを終えると、晩ご飯に作った冷やし中華を食べながら、開いたままのサイトを眺めることにした。
まぁしかし。
「すごいなー……」
思わず感嘆する。
載せられた写真、フロアごとの地図、設備。ワンルームの狭い部屋で行儀悪くも画面を眺めながら麺をすすっている自分が滑稽に思えるくらいの素晴らしい世界。
そして、ついつい見てしまった、お値段のほうも。
――やっぱり、おかしい気がする。
いくら佐々木さんがそういうのを扱っている会社でも、いくら急なキャンセルで余ったものだったとしても。
「……ふ――」
食べ終わった器に箸を置いて。
静かにひとつ、ため息をこぼす。
それでももう、腹をくくるしかない。
異変が訪れたのは、一通り船内の造りを確認して、なんとなく乗船手続きの項目をクリックした、その時だった。
「……あれ?」
画面が、フリーズした。
「えー? ちょっと、もう」
カチカチと画面上をクリックしてみるも、無反応。ハードディスクのランプも消灯、音もしない。諦めて電源ボタンに手を伸ばした瞬間、
「えっ」
一瞬のブルースクリーン。内容を確認する暇もなく、画面は真っ暗になってしまった。
「……嫌だなぁ」
電源ボタンを何度押しても、うんともすんとも言わなくなった塊に、不吉なものを感じざるをえず。
結局私は、言いしれぬ不安を胸に社員旅行の日を――その最悪な日を迎えることになった。
よくある小説のように >>
Twitter300字SS「雪の日」「依り代」
2015/01/31 21:00 □ 短編・ショートショート
Twitter300字SS お題「雪」
ジャンル : オリジナル。
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雪の日
「ママ! 雪!」
はしゃぐ娘は傘を手にくるくると庭を駆ける。
「だーめ」
マスクを外し、空を見上げる我が子の口をふさぐと、指の間から不満げな声が漏れた。
食べさせられない。汚染された空から降り注ぐ灰色の雪。例え咳が出る程度のものでも。
なだめるように背中から抱きしめる。
「ママ、お空青いね」
つかの間の青空が顔を出している。雪はもうすぐ止むだろう。
この雪には浄化作用がある。この街の汚染物質を吸着して、ほんの少しの間だけ、空気を綺麗にしてくれる。
雪が止み、マスクを外す許可を出す。
「冷たくて気持ちいい!」
青空と、一回だけの深呼吸。雪の日には、この子の笑顔が満ちている。
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依り代
もう一度会いたい人がいる。
街で声をかけてきた親切なおばさんにぽつりとこぼしたら、詳しい人だったらしく依り代がどうのと話を聞かせてくれた。
眠くて頭に入らなかったが、人形が必要だとか、本人と似ているといいとか。
おばさんは一緒に会合に出ようと誘ってくれたが恥ずかしかったので断ってしまった。
うちに人形はない。
それならと、ひとり庭に出る。踏みしめるのは白い雪。
思いが強ければ、雪人形でも魂は宿るだろうか。
土の混じった茶色い雪で形作る。鼻は…人参ないし、みかんでいいや。
うん、似てる。なんて思ってたのに。
頭を抱える。きっと何かを間違えたんだ。
妙なものが宿ってしまった。
「ぼくの顔をお食べよ!」
「頼むから帰って」
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雪の日はなんか上手くいかなかったが、依り代は意外と気に入っている(。・ω・。) 馬鹿でなんじゃそらって感じだけどw
真面目っぽいのは難しいです。
【ネタバレ注意】ねがいごと
2015/01/01 00:00 □ 城ノ内探偵事務所
あけましておめでとうございます。
某所で予告していた通り、没作の小ネタを公開します。
申し訳ございませんが、サークルSiestaWebが発行しております「城ノ内探偵事務所-Mission-」を読んだ方向けです。
公開中の本編から、もしくは「城ノ内探偵事務所」の本からMissionを飛ばしてこれを読むと、思いっきりネタバレしてる上に、多分「は? え? 何、どういう状態??」になると思いますのでおすすめ出来ません。
正直やめといたほうがいいと思います。
Mission既読の方は続きをどうぞ。
【予告】
3月川崎で行われるText-Revolutionsに(落選しなければ)サークル参加します。
城ノ内探偵事務所シリーズの新作「よくある小説のように」を無料配布予定。
それに伴い、2月あたりにその前日譚を公開します。
また、テキレボ後少し時間をおいて「よくある小説のように」自体も公開予定です。
これは公開中の本編後、かつ「城ノ内探偵事務所」収録「解放」の前という想定で書いてるので、本編のみの方でも大丈夫、のはず。……多分。
無料とはいえ文庫で70~80ページになる予定なので、結構なボリュームですよ。
よろしければチェックしてみてくださいまし。
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城ノ内探偵事務所
#ねがいごと
「却下。繁華街に近すぎる」
夕食を共にした後、私はリビングの小さなテーブルに物件情報の雑誌やチラシを広げる。
ここしばらく数日おきに開いている賃貸物件の品評会だ。
この件においては敵とも言える立場の上司にわざわざ意見を聞く理由はひとつ。賃貸契約の保証人になってくれる人間が他にいなかったからだ。
父親には頼れず、母親個人には収入がない。一番頼れそうだった兄には『しばらく住所は聞かないほうがいい』と断られた。前回のように宮原の所長に頼むのは今さら不自然で、保証人会社を使うには手持ちが心許ないうえ、最悪実家に連絡が行く可能性もある。
八方ふさがりで渋々頭を下げた私を、上司は快く受け入れてくれた。彼が納得する物件を見つけてくるという条件で。
「じゃあ、こっち」
「一階とか絶対駄目」
「…………じゃあ、これは?」
期待を込めて彼の表情を観察すると、彼もまたちらりとこちらの表情を確認する。これが今日の本命だと、察しが付いたらしい。
条件的には申し分ないはずだ。事務所からは若干遠いが、駅からは近く、暗い夜道を歩く必要もない。高級住宅街近くの落ち着いた地域で、フロアは五階。セキュリティは万全とまでは言えないが、オートロックくらいは付いている。家賃はさっきまでの物件に比べれば少し高めだが、相場からすれば格段に安く、私の給料でもなんとかやっていける程度。
さぁどうだ! という気分で、言葉を待つ。
けれど。
「却下」
彼はまた、同じ言葉を繰り返す。
短く切り捨てる返答に、思わず不服が顔に出た。
「なんでですか?」
「……あかりちゃん、気にしないタイプ?」
「は?」
生暖かい目で質問され、思わず聞き返す。
「事故物件だよ。半年前、旦那の浮気でノイローゼになった奥さんが旦那刺し殺して自殺してる」
「…………」
「知らなかった? それ以来、誰も住んでないはずだけどね」
思わず黙り込んだ私の顔を伺いながら、彼は追い打ちをかける。一瞬の葛藤も見抜かれただろう。
了承済みだと嘘をつけたらそれでよかった。それで、私はここから離れられた。
問い返してしまったのは私のミス。今さらいいわけなんて通用しない。
別に事故物件でもいいじゃないですか――そう口にしないのは、既に問題がそこにないことを悟ったから。
『気にしないタイプ?』
彼は敢えて、ちゃんと知らされていなければ意味がわかりにくい聞き方をしたのだ。
「事故物件を初めて借りる人には説明義務があるのは知ってるよね。今日行ってきたのが義務を果たさないようなろくでもない不動産屋なら、これ以上見る必要ないね」
「……うぅ」
うなだれる私の手から物件情報の束を奪い取り、彼はバサリと傍らのゴミ箱へ放り込む。
「ったく、なんでそんなに出て行きたいかね」
うつむいたままの頭をいつものように撫でられる。
悔し紛れに無言でその手を振り払った私に、上司はただ、わがままな子供に向けるような困ったような顔で笑っていた。
*
「お待たせしました……って、なんですか。なんかついてます?」
一月一日午前零時十五分。部屋から出てきた私をじっと見る上司の微妙な顔に、思わずコートの裾や背中をチェックする。コートの下から見えるスカート、足を覆う黒タイツまで確認していると、
「あぁ、いや。着物じゃないんだなーと思って」
そんなことを言って上司はどことなく残念そうに笑った。
「そんなもの持ってきてるわけないでしょ。例え持ってても着ませんよ。クリーニング代いくら掛かると思ってんですか」
「まぁそうだろうけどさ。晴れ着姿の女の子と一緒に初詣とか、なんか理想っぽいじゃん」
「……変な理想と重ねないでくださいよ。その言葉、ただでさえトラウマなんですから」
彼はこちらの白けた顔に、ごめんごめん、と苦笑を返す。
「でも、似合いそうなのに」
「んー、まぁ、和服は嫌いじゃないですけどね。着ると背筋が伸びる気がしますし」
「あかりちゃん、もしかして着付とか出来る?」
「どうでしょうね。昔、お茶とかお華のついでに教わりましたけど、もう長いこと着てませんし。成人式はプロの人に着せてもらいましたから」
「……へぇ、お茶にお華か。さすがお嬢様」
揶揄するような言葉で素直に感心されてしまって、慌てて付け加える。
「と言っても、どっちも先生は母ですけどね。真面目にやってたの、中一くらいまでですし」
「いや、納得した。なんとなく立ち居振る舞いが綺麗だなーと思ってたから」
テーブルに置いたままの年越し蕎麦の出汁を名残惜しげにすすりつつ、上司はいつもの柔らかい笑顔でさらりと私を褒めた。
「はぁ……そうなんですかね?」
誰かからこうやって手放しで褒められるのは慣れていなくて、正直反応に困る。やっと口から出たのは他人事のようなセリフだった。
上司はくすりと息を漏らすと、傍らのコートを羽織った。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
準備は整った。行き先はもちろん、近所の神社だ。
初詣に行きたいと言った私に、上司は夜の間に自分と一緒ならと条件付きで許可をくれた。
「はい。よろしくお願いします」
立ち上がった上司を見上げて頷くと、はい、と外出用の伊達眼鏡を渡された。
「……するんですか、やっぱり」
「当然」
「……今日くらい大丈夫じゃないですか? 暗いんですし、お参りしたらすぐ帰るんですから」
「甘いよ、あかりちゃん」
「そうですか? 暗い中そんな短時間で見つかるなんて思えませんけど」
警戒しているのは、未だに私の部屋を張っているという記者数人。既に話題に登らなくなった元婚約者についてはどうでもよくなっているはずだが、「お嬢様の波乱の人生!」のほうを嗅ぎつけたらしく、実家の圧力も効果が薄い。どうも難儀なことになってきていた。
とはいえ、写真で私の顔を知っているとはいっても実際に会ったこともない人に、この暗い中、そう簡単に判別がつくのだろうか。一人一人の顔を覗き込んでいる怪しげな人間がいるなんていう情報でもあれば別だけれど、そんな情報があるなら彼が許可を出すわけはないのだし。
面倒に思いながらも、仕方なく渡されたそれを装着する。
「ま、いいや。ささっと行きましょ?」
「……やっぱりわかってない」
「はい?」
「……ま、いいや。行けばわかるよ」
げんなりとため息を吐く彼に首をかしげながら、雪降る街へ足を向けた。
*
カウントダウンが終わって三十分を過ぎても賑やかさの残る駅前を通り過ぎると、昔ながらの一軒家が建ち並んでいる。建物自体も眠っているかのように静かなその地区を抜けると、目的地はそれほど遠くない。この坂を上がりきれば、もうそこに見えるはずだ。
「西園って神道系なんだっけ」
「あぁ、まぁ、一応。昔は神職に就く人も多かったらしいですね、今となってはあんまり関係ないですけど。あぁ、でも親戚には信心深い人もいましたよ」
上司との同居が始まった直後、ご挨拶程度に参拝したのは、道案内に神社の名前を見て、なんとなくその親戚を思い出したからだ。参拝に付き合ってくれた上司からすれば、私も信心深く見えたのかもしれない。実際はと言うと、神様を信じるというよりは敬意を払っている程度で、件の親戚のご機嫌取り用で祭事関係に同席することはあったものの、信心深いと言うほどでは決してない。
「可愛がられたでしょ、その親戚には」
「まぁ、そうですね。宗教系の場に小さい子が居て、大人しく話聞いてれば、老人は大抵褒めますから」
苦笑しながら答える。まぁ、退屈を隠せなかった兄より私が褒められることが多くなってからは、そんな場にも連れて行かれることはなくなったのだけれど。
あの親戚は元気にしているだろうか。
少し懐かしく思いながら坂の上にたどり着いたとき、上司が目の前の空気と自分の眼鏡を曇らせながら、小さく息を吐いた。
「……え」
それが目に入った瞬間、足を止めて言葉を詰まらせた私に、携帯を眺めながら、上司が言った。
「三十分待ちだってさ、本殿の参拝」
「……ごめんなさい。確かに、わかってませんでした」
というか、なめていた。道理で嫌そうだったわけだ。
住宅街の片隅。参拝している人なんて見たこともないようなこの神社がこんな状態になるなんて完全に想定外だ。みんな、なんでこう突然神道に熱心になるんだろう。正月というものの恐ろしさを実感する。
鳥居の外まで伸びた参拝者の行列。気後れしていると、温かい手のひらに背中を押され、誘導される。
「俺も並ぶのは好きじゃないけど、ここまで来て帰るっていうのはなしね」
「……言いませんよ、そんなこと」
いや、ほんのちょっとは思ったけれど。
「大丈夫? 寒くない?」
「寒いです、って言ったらコートでも貸してくれるんですか?」
「残念ながら、それはさすがに貸せないなぁ」
コートの重ね着ってのは斬新で見てみたい気もするけど、なんて。私の冗談に、彼が困ったような顔で笑う。
列の最後につくと、すぐに私たちの後ろにも数人が並んだ。その人たちに聞こえないようにか少し身を寄せて、彼がくすりと笑う。
「あっためてほしければ善処するけど?」
「結構ですからいかがわしい発言しないでください。このくらい大丈夫ですよ、城ノ内さんよりは若いんですから」
「それは残念」
小さく肩をすくめながら、上司は前に向き直る。少しだけ詰められた距離はそのままに。
コートの裾が触れあうその距離はさっきよりほんの少し温かくて、「離れてください」とは敢えて言わなかった。彼がこの現金な考えに気づいているかどうかはわからなかったけれど。
なんとなく、その横顔を見上げる。気づかれないように、そっと。
自分より頭ひとつ分高いところにある、その顔。
――この人と暮らしてるんだよなぁ。
あれから一週間と少し。「危機感」を忘れさせないためか、さっきみたいな冗談は若干増えたものの、特に何事もなく日々を過ごしている。なんの支障もなく。
問題と言えばただ、いち早くあの家を出て行きたい私が住宅情報誌を手に、上司に一蹴されるのを繰り返していることだけだ。未だ、許可は下りない。
成り行きで引き込まれて生活の一部をともにするようになったものの、正直未だに、この人が何を考えているのかはさっぱりわからない。
――早く。
早くしないといけない。そんな焦りが、頭を占める。
だから今日ここへ来たのは、初詣にかこつけた神頼みだった。
*
「あかりちゃん、さっき、どんな願いごとしてた?」
あの大勢の人たちは一体どこへ消えたのかと不思議に思うほど、静かな帰り道。並んで歩いていると、隣の男が問いかけてきた。
「城ノ内さんには内緒です」
「そう。じゃあ、当ててみようか」
数少ない街灯がぽつりぽつりと照らすだけの道は薄暗く、彼の表情はわかりづらい。けれど、その声が、笑いを含んでいることはよくわかった。
「確証のない推測は、口に出さないんじゃありませんでしたっけ?」
「確証に近いものがあるからね」
穏やかに笑いながら、そんなことを言う。『君はわかりやすいから』。そう言われた気がして少しムッとする。ちらりと視線をやると、こちらの不機嫌な顔に、上司が笑みを深めたように見えた。
「『早く、うちから出ていけますように』。……違う?」
「……正解です」
「はは、やっぱり」
あっさり当てられて、少し悔しい思いに駆られながらもそれを認める。返ってきたのは、困ったような声だった。
「城ノ内さんは、何をお願いしたんですか?」
「なんだと思う?」
自分の願いごとだけ知られているのは不公平な気がして言ってみたどうでもいい質問は、そのままこちらに返ってきた。
「今年一年健康でいられますように、とか?」
私の適当な答えを聞いて、彼が吹き出す。
「なんでまた」
流れで聞いてはみたものの、正直興味がなかったというのが半分。それは彼もお見通しだろう。そしてあとの半分は――ただ、そんなことだといいなぁ、という私の希望だった。
「城ノ内さんが神頼みするようなこと、それくらいしか思いつきませんから」
彼に神頼みは必要ない。自分の願いはきっとどんなことでも自分で叶えてしまうだろうから。神様に頼るとしたらそれは。
「本当に、そう思ってる?」
笑みが薄れた、ほんの少し真面目な視線。やっぱり敵わない。私が、おそらく正解であろう答えを知っていて、敢えて口にしなかったことすらも、お見通し。
ため息が口をつく。
「……『私が出て行かないように』、ですか?」
思い通りにならないとしたら、頑固な部下の心の中くらいだ。
「相反するふたつの願いごとをされた場合、神様はどっちを叶えるんだろうね」
「……信心深いほうじゃないですかね」
思わず、目を逸らす。
「ここが縁結びの神社でも?」
「……」
「信心深ければ縁切りも担当してくれるんだ。よかったね、信心深くて」
嫌みくさいセリフに、頬が引きつる。私がさほど信心深くないと知ってるくせに。というか、なんて罰当たりな言い回しをするんだ、この人は。
「良い縁が強くなれば、悪い縁は弱くなるんですっ」
「……ほう?」
トーンを一段落とした彼の声に、ハッとする。
「つまり君は、俺との縁を悪い縁だと思ってるわけだ?」
「……っ」
言葉に詰まる。
音の低さに反して、怒るでも拗ねるでもなく、面白がっているような声。
えぇそうですよ、と。思いっきり生意気な口調で言ってやりたい気分に駆られる。
――あぁもう、まったく腹立たしい。
「あかりちゃん?」
答えを求める声に、諦めのため息をひとつ零して。
「……そんなわけないでしょう」
どれだけ腹立たしくても、
どれだけ悔しくても、
これだけは、否定してはいけない。
「あなたは、園田あかりの居場所なんですから」
ぶっきらぼうにそう言った私に、上司が満足そうに笑う。
「寒かったけど来てよかったな。神様も俺の願い事のほう聞き入れてくれたらしいしね」
「ちょっ、私諦めてませんよ! それとこれとは話が別ですから!」
「はは、往生際が悪いなぁ」
彼は心底楽しそうにそう言って歩を進め、
「でもま、とりあえず」
振り返ってこちらへ手を伸ばした。
「帰るとしますか――我が家へ」
「……はい」
すっかり慣れてしまった手のひらの重みの下で、短く返事をする。
彼の肩越しに見る空に、月はない。
街灯の少ないこの帰り道と同じように、自分の行く先は未だよく見えないけれど、
どんなに振り回されても、きっと間違ってはいないのだと、なんとなくそう思った。
—————-
お読みいただきありがとうございます。
Missionに入れようかと思って書いたけどなんとなく没になった話を12月になってからなんとか終わらせた小ネタ「ねがいごと」でした。
これを没にすることがほぼ決定してから「彼女の存在」を書き進めたもので、微妙にダブった箇所があります。
とか言いつつ、実は「彼女の存在」も自分的に掟破りだったので入れるかは最後まで悩んだんですが(城ノ内視点で書かないこと、が自分ルールでした)。
で、まぁとりあえずついこの前出来上がったのがこれです。
相方に見せたら「めんどくさい奴ら」と言われましたが、ホントにな、という感じでございます(笑)。
全方向受信型の自分は、執筆時あくまでなんとなく頭に出来た話を書き出してる感覚です。自分が話を作ったというよりは、自分はプリンタ役に近い。キャラが勝手に動いて違うものになることはありますがw
だから主張したいこととか、感じてほしいこととか、ご立派なものは基本ありません。
それでも無意識的に自分が書いたものにテーマがあるとしたら、このシリーズは多分「居場所」なんだろうな、と思っています。
自分自身が「自分の居場所」に執着するタイプなので、そういうのが現れてるのかなー、と。
だから、未だ恋愛未満なふたりですが、実はものすごい依存関係にあるというね……まさに「めんどくさい奴ら」です。はい。
「城ノ内探偵事務所-Mission-」の本の「続き」はぶっちゃけありません。
(あれ以上続けたらそのうちエロ書くことになりそうだからね……?)
が、一応番外編的なものをいくつか書く予定です。
そのうちのひとつが前書きにある「よくある小説のように」。その他に構想だけある状態なのがもうひとつ。これがちゃんと書けたらまとめて9月の大阪文フリでもう一冊本が出ます(3月はこれを見越しての無料配布)。
お気が向きましたら、もう少しだけこのふたりにお付き合いいただけると幸いでございます。
それでは、今年も皆様にとってよい一年であることを。
傍らのしあわせ
2014/12/30 19:54 □ 短編・ショートショート
即興掌編
—–
傍らのしあわせ
「こらこら、そこ座らない!」
「……ちっ」
「今舌打ちしたな、おい」
「うるせーな」
「テーブルの上に座るなっていっつも言ってるでしょ! 行儀悪いなぁ!」
「テーブルじゃねーよ、こたつだろ」
「一緒なの!」
「はいはい、わーったよ」
面倒そうにため息をついて、彼がこたつから離れる。彼の座っていたところに持ってきた鍋を置くと、私はこたつに足を入れた。
「めんどくせー女」
「ひろちゃん、文句言うならご飯食べさせないよ」
「……生ゴミぶちまけてやる」
「それだけはやめて」
くっと短く笑って、ひろちゃんは床にあったリモコンのボタンを押す。数秒の静けさの後、テレビからバラエティ番組の音声が流れ始めた。あまり興味のない大晦日の特番。
あと一時間もすれば、カウントダウン。
三ヶ月前、事故で両親を亡くした私が初めて迎える、たったひとりのお正月。
いや、ひろちゃんが一緒にいてくれるからひとりじゃないか。
鍋の中から白菜と鶏肉を取り分けて彼の前に置く。めんつゆ風味の出汁が勢いよく湯気を立てていて、それを顔に浴びた彼が嫌そうな顔をした。
「これ熱すぎだろ」
「そう? 猫舌だね」
「いや、これはお前でもやけどすんぞ」
「大丈夫だよ。鍋なんて熱いのふーふーしながらゆっくり食べるのがいいんじゃん」
「めんどくせー。わかんねーよ」
早く食べたいのに、と恨めしそうにこちらを見てくる彼に、
「仕方ないなぁ。じゃあ、ふーふーしたげよっか?」
からかうような台詞を口にした。
ひろちゃんは一瞬、お前なぁ、と呆れたような視線を寄越したけど、
「……うん」
と、器の中身を見つめながら、小さく頷いた。
「お前、よく食うなぁ」
食後、みかんのカゴに手を伸ばしていると、呆れたようにそう言いながら、ひろちゃんが私の膝に頭をのせてくる。
「珍しいね。どしたの、甘えて」
「逆だよ。甘えたいんじゃないかと思ってさ」
「……うん」
さすが。二十年以上をともにしてきた彼にはお見通しか。
膝を見下ろして、そっと彼の頭を撫でる。
「ひろちゃん……帰ってきてくれて、ありがとね」
涙が頬を伝う。両親が亡くなる前後の一週間、彼がいなくなった時のことを思い出してしまった。何をしていたのかは後から聞いたけれど、もしあのまま帰ってこなかったら、私はひとり、今もちゃんと生きていられただろうか。
「本当に、ありがとう」
もう一度繰り返す。気持ちよさそうに目を閉じていたひろちゃんが、むくりと体を起こした。
私の膝に手をついて伸び上がる。近づいてきた顔が、私の下唇に、つつくようなキスをした。
「泣くなよ、涙で毛が濡れるだろうが」
ペロリと、ざらついた舌で頬の雫を舐め取った彼は、ちょっと恥ずかしそうにそっぽを向いて私の膝に座り直した。
「一緒にいてやるから、俺が人間に化けられるようになるまで、死ぬんじゃねーぞ」
照れたようなその声は、なんだかものすごく高いハードルを提示してきて。
「……うん。頑張る」
私は笑いながら、小さく頷いた。
「大好きだよ、ひろちゃん」
除夜の鐘が鳴り響くのを聞きながら、にゃあと暴れる小さな体を後ろから抱きしめる。
愛しき二股の尻尾が、放せ放せと怒りをこめて、私をペシペシと叩いていた。
—–
お読みいただきありがとうございます。
ということで、思いつきの短編、猫又オチでございました。
珍しくツンデレですな。
叙述トリック系になるのか、これ?
お時間が許すなら、二回読んでみてください。
上手く騙せていたなら、一周目と全然違う印象になると思います。
普通に途中でばれてんじゃないかって気もしますが。
とりあえず今の心境 : あぁもう、モフりたい……!
伸び上がってチューしてくるシーンが作者の萌えポイントでございますw
比較的頑張った一年の書き納めとしては、穏やかでいい感じのものになったのではないかと思います。
2014年は色々アクティブな一年でした。
相手をしてくださった方々、ありがとうございました。
ちなみにひろちゃんは、猫ひろしからつけたんだぜ?(台無し
誕生日記念
2014/12/24 00:00 □ 城ノ内探偵事務所
12月24日はうちの子あかりさんの誕生日です。
クリスマスネタは城ノ内の誕生日の時にやっちゃったし他にネタ思いつかないので、時季外れですがバレンタインで小ネタな寸劇やってみます。
元ネタは相方に描いてもらった三ヶ月カレンダーの2月分の絵柄。というか、これ見て妄想した。
※カレンダーとは背景が違います。
相方は絶対に私を殺しにかかってると思う今日この頃です。萌え死ぬ……!
注意! 微妙にMissionのネタバレ臭がします。
(カサカサペリッ)
城ノ内「あ、さっきの?」
あかり「はい?」
城ノ内「それ。居酒屋で斉藤さんにもらってたやつじゃないの?」
あかり「あぁ、はい。お店の常連さんに売れ残り一杯もらったらしくて、お裾分けですって」
城ノ内「1個ちょうだい」
あかり「駄目です」
城ノ内「えー? 一杯あるのに」
あかり「城ノ内さんは駄目です」
城ノ内「じゃあいいや、勝手にもらうから」
あかり「え゛っ、ちょっ!?」
城ノ内「……甘」
あかり「な、なんでわざわざ人の手から食べるんですか!」
城ノ内「んー、手っ取り早かったから?」
あかり「せめて箱の中から取っ……って、待って城ノ内さん! それ、中身お酒ですよ!!」
城ノ内「……えっ」
あかり「だから駄目だって言ったのに……まだ噛んでないなら吐き出したほうがいいですよ」
城ノ内「大丈夫だよ、1個くらい」
あかり「でもそれスピリタス入りでキツすぎて返品されたやつだって……」
城ノ内「えっ、ってうわ、キッツ……!」
あかり「……お休みなさーい(逃亡)」
